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第11回特集:外国人介護士の受け入れで現場はどう変わる? ―国別で見る傾向そして今後の展望 Part1

情熱と信念を持って行動に移せ ひとりが変われば世界も変わる 玄 秀盛さん

EPA(経済連携協定)による外国人介護士受け入れについての概要を前号でお届けしましたが、今回は彼ら出身国の内情や文化の相互理解など、同じ現場で働くうえで重要となるポイントをまとめてみました。また後半では約10年にわたりフィリピン人介護士の育成に努めてきた平出友久さんに今後の外国人介護士の動向についてお話を聞いてみました。

高齢者を敬う精神。フィリピン人の中に
根付く思想が質の高い介護を生む

平出 友久さん

ウェルケア・コンサルティング合同会社
代表コンサルタント 平出 友久 さん

Profile:

1961年長野県生。大学卒業後、専門商社課長、新聞社支局長を経て介護福祉士養成校で責任者を務める。2005年にコンサルタントとして独立、在日フィリピン人介護士養成・派遣事業「東京ケアギバーアカデミー」の設立運営を担当。約1300人の介護士を養成した。現在は介護事業および介護教育のコンサルティングを手がけている。日本社会福祉学会・日本介護福祉学会会員。

高齢化問題はボーダレスで取り組むべき課題

――10年ほど前から「介護開国論」を提唱されていますが、当時の福祉・介護を取り巻く環境はどのようなものだったのでしょうか?

当時私は介護福祉士養成校の責任者だったのですが、大学などの講師に転職し、研究職に従事したいと考えていました。論文作成のため色々と資料を集めていたのですが、厚生省(当時)にゴールドプラン21※を総括した資料を請求したところ「ない」と言われてしまったんです。「そんなわけないだろう!」と半ば強引に資料を提出させたのですが、なんとそこには「介護労働者については、将来的にも人手不足は発生しない~」とハッキリ書かれていたんです。当時すでに介護士不足が始まっており、将来的な人手不足が予測できていたのにも関わらず、国がまったく危機感を持っていない。そんな状況でした。

国に頼っていては人材の供給が追い付かない。少なくとも日本一国だけで解決できる問題ではなく海外との協力体制は避けられない。とは言え海外でも高齢化は社会問題になってきていましたし、もうこれは国を越えボーダレスで各国お互いにサポートし合わなければならない。そこで「介護開国論」という言葉が出てきたんです。

※ゴールドプラン…「高齢者保健福祉推進10か年戦略」。1989年(平成元)に旧厚生省が策定した保健・福祉サービスの量的将来目標値を明示したもの。その後数値目標が見直され「新ゴールドプラン」(1994年)、「ゴールドプラン21」(1999年)と改定されている。

実習先から「すぐにでも彼女を雇いたい」

――その後コンサルタントとして独立されましたが、具体的にどういう活動を始められたのでしょうか?

日本とパートナーシップを持ってくれる国を探すため、色々な企業や団体などに相談していたのですが、東京にある国際電話会社から、在日フィリピン人を対象に介護教育と人材ビジネスを手がけたいので、そこのコンサルティングをやってほしいという依頼が飛び込んできたので引き受けることにしました。

いよいよ授業初日。教壇に立つまでは「果たして授業が成立するんだろうか?」と不安でしたが、上がった途端不安は消えました。集まった生徒たちは私の顔をじっ見つめて少しも聞き漏らすまいと授業を聞いている。わからなければ積極的に質問するし、わかればうなづく。学ぶことの喜びを彼女たちもすごく感じてくれていたと思います。それが教える側にも伝わり、教えることの喜びを思い出させてくれました。

――就職した卒業生について何かエピソードがあればお聞かせください

授業風景

介護士養成校で教壇に立つ平出さん。生徒は皆一様、熱心に視線を平出さんに注ぐ。

ある生徒が特養併設のデイサービスに実習に行くことになったんです。そうしたらある利用者さんが「次に来るときもこの子がいなければイヤだ」と言ってくれたんですね。入浴介助のとき、ていねいに洗ってくれて会話も弾んでとにかく楽しい風呂の時間だったと。その評判が施設の上層部にまで行って「卒業後すぐにでも彼女を雇いたい」とオファーをいただいたんです。

指導していて感じたことですが、とにかく彼女たちの介護の質は高いですね。これはフィリピンの国民性、教育、宗教観に関わってくるところですが、とにかくフィリピン人は徹底してお年寄りを敬う姿勢を持っています。この精神が質の高い介護を生む源泉だと思います。

EPAの問題点。そして新たな制度も誕生も

――日本で就職を希望する外国人介護士の受け皿を広げるためにはどのような取り組みが求められるでしょうか?

現在EPA(経済連携協定)による介護士が続々来日していますが、もともとこの仕組み自体、日本主導で動いているところに大きな問題があると思っています。国家試験や記録を取るのに漢字が使えなきゃいけないとか言っていますが、本来日本は助けてもらう立場なのになんでこんなに偉そうにしているのか。まあ日本とフィリピンのEPAは政府主導で進められた話で、後に出てくる反対勢力を少しでも説得させるため、資格取得のハードルを上げざるを得なくなったというのが背景にあるのでしょうが…

いずれにしろもっと友好的に人材を受け入れていく努力をしないと、人材も他国に流れ日本は相手にされなくなってしまいます。

――ただし今日本では、EPA以外で外国人労働者を受け入れる動きがありますよね

「技能実習制度※」に介護を追加しようという動きがありますが、これにも反対勢力はいますね。将来日本は介護労働力も受け入れてくれる施設も足りなくなってきますが、老後余生を海外で過ごそうとする人たちもいますよね。そこで技能実習制度で日本式の介護を学んだ人たちの国へ私たちが移住し、介護サービスを受けながら老後を過ごすというのも選択肢の一つになってくると思います。せっかくこういう制度があるのならば介護の分野でも採用すべきではないでしょうか。

※技能実習制度…外国人に日本で仕事のスキルを身に付けてもらい、発展途上国の人材育成をサポートする国際協力体制。現在その職種に「介護」「林業」「自動車整備業」の追加が検討されている。

幸せを感じてもらうために、共通の目標を持つことが大事

――外国人を雇用するにあたり経営者が心得ておかなければいけないことは?

フィリピン他諸外国もそうですが、彼女たちは契約社会で生きてきています。雇用契約内容について双方よく確認をし、書面はきちんとしておかなければいけません。昔教え子が私のところに「先生、もう仕事辞めたい」と駆け込んできたことがあったんです。理由を聞くと、「契約に書かれていないことを命じられた。これから何を言われるかと思うと怖くてもう働けない」と言うのです。

日本人の感覚からすると、仕事を覚えてきたら、あれもこれも任されるようになりそれで一人前として認められることがステータスじゃないですか。実際私もその話を聞いたとき「教え子が認められて良かった!」と思ったのですが、この感覚は外国人には通用しないことを雇用者は心得ておかなくてはいけません。

――日本人と外国人が切磋琢磨して働ける、魅力ある職場にするためには今後どのような取り組みが求められるでしょうか?

2014年7月13日四国新聞切り抜き

就業中の比人に対して不当な誓約書を書かせていた大阪の介護事業者を報じた新聞記事。他にも非人道的な勤務実態が発覚。今後の外国人雇用のあり方が問われる内容だ(2014年7月13日四国新聞)。

介護の世界で一番大事なのは、利用者さん自身が「ここの施設に来てよかった」「サービスを受けられてよかった」と思えること。一人の利用者さんをどう幸せにするか。そのために統一した目標を掲げ共有することが大事じゃないかと思います。

当面は外国人の手を借りなければならない状況が続きますが、フィリピン人って相手の懐に入っていくというか、周囲に溶け込むのがうまいですよ。そんな彼女たちの特徴を少しでも理解して採用してくれる施設が増えてくれることを願うばかりです。

インタビュー・文/大西啓介