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第8回特集:春のスペシャルインタビュー

情熱と信念を持って行動に移せ ひとりが変われば世界も変わる 玄 秀盛さん

さまざまな人が行き交う街、新宿歌舞伎町で、DVや借金、自殺志願者などあらゆる人々の悩み相談を無償で引き受けてきた玄秀盛さん。貧困だった幼少時代から実業家にまで上り詰めた浮き沈みの激しい人生経験を糧にこれまで多数の悩みを解決。今の日本人が抱える問題やリーダーの在り方、そして疲弊が進む介護の現場づくりのために必要なものは何かなど、厳しくも優しいアドバイスをいただいた。

Profile:

1956年大阪市西成区生。中学卒業後、建設、不動産、金融、探偵などあらゆる職を経験し10社あまりの会社を経営する実業家に。2000年に白血病を引き起こす恐れのあるHTLV-1の保菌者であることが判明し、以降人のために残りの人生を捧げる決意をする。2002年5月、新宿歌舞伎町にNPO法人日本ソーシャル・マイノリティ協会を設立。2012年に現在の公益社団法人となる。著書に『愛と命と魂と』(KKロングセラーズ)、『崖っぷちからの大逆転 自分を変える52の知恵』(清流出版)など。

結局みんな生身の人間に触れたいんや

――「日本駆け込み寺」を設立された経緯についてお聞かせください

きっかけは献血。採取した血液から白血病の可能性のある陽性反応が出たんや。そこで急に死を意識するようになり、銭儲けは一切合切止め。経営していた会社も全部整理して残りの人生を世のため人のために使おうと決意したんや。生き様探しちゅうか、まあ「生き直し」と言ってええかな。

それで自分に何ができるか考えたとき、女、子どもくらいなら助けられるなと前身の「新宿救護センター」というのを立ち上げた。歌舞伎町にしたのは、ここなら困っている人も多いやろと思ったから。実際24時間365日体制で駆け込んでくる人の相談に応じてきたよ。当然誰も賛同してくれる人なんかおらへんし不眠不休で1年3カ月続けたかな。今はもう体力的にキツくてできんよ。でも当時の俺があるから今の俺がある。会社をやるには資本金が要るけど、俺の場合は「情熱」が資本やな。

――これまでに受けた相談は3万件を超えるそうですが、みなさんどんな悩みの相談に来られるのでしょうか?

まあ今の時期(3~4月)は精神的なものが多いな。就職、転勤、進学の季節でみんな環境が変わるから要は不安なんや。年末年始は物悲しさあってか自殺志願者が多い。だからウチは元旦も開けている。

事務所風景

歌舞伎町の事務所にはこれまでに取材などで来訪した人たちとの写真や賛同者から贈られた賞状などが飾られている。俳優の渡辺謙、元宮城県知事の浅野史郎、EXILEのATSUSHIなど錚々たる名前が並ぶ。

相談って絶対に無くならないし年々増えてきている。なぜなら世の中が優しすぎるようになってきたから。今はどこに行っても相談する場所ってあるでしょ? 最近じゃ警察や行政もよう動いてくれるようになったし。でも昔はもっと自力でなんとかしたるといった気骨があった。今は人間自身が弱くなってきているな。何があってもすぐに受け入れることができない。キャパが小さくなってきているんや。

そういった悩みでここを訪れてくる人って、生身の人間の声が聞きたいんちゃうかな。携帯やネットでなんでも情報は手に入る時代になってきた反面、みんなどっか生身の人間に触れたんや。まあこっちとしては元気づけてあげるだけ、つまり答え無き相談。「誰かがなんとかしてくれる」という考えの人が多いけど、結局は最後決めるのは「自分」なんや。

組織は強烈なリーダーがいるかで決まる

――日本駆け込み寺は完全に無償、つまりボランティアで活動されていますね

「ボランティア」と言うけど、本当に真剣になってボランティア活動をしているヤツはそうはおらへん。企業もボランティアに取り組むようになったけど、会社命令でしかも勤務時間内でやるっちゅうのはおかしいわ。学生ボランティアに勤しんでいたけど社会人になった途端止めるヤツも多いわな。こんなんでは日本でボランティアは根付かへん。

アメリカではみんな日曜礼拝に行くでしょ? スポーツ選手とか金持ちはシーズンオフに何しとる? みんなボランティアしとるよ。教会へ行くのもボランティアするのもすべて彼らのライフワークの中に組み込まれている。消費税が値上げになって3%多く払わないかんけど、まずは自分のライフワークの“3%”をボランティアに費やして社会還元したらどうやろか? ボランティアは確かに大変やしキツいけど、ホントはもっと面白いもんだよということに気づいてほしい。そのためにはそれを伝えるためのリーダーが必要やけど、そんなリーダーどこ探してもおらへんな。

――確かにリーダーの求心力や指導力は重要ですよね

組織はそこに強烈なリーダーがいるかどうかで決まる。みんなそれを見て学ぶからな。そしてリーダーは口だけでなく行動が伴っているか。ボランティアもそうやけど、みんな頭では大切なことだとわかっていても行動に移せない。まずは1年でもいいから打ち込んでみな。頭に体がついてくる。そうすれば発する言葉の覇気が違ってくる。同時に人に対する優しさやいたわりが自然に出てくるようになる。

玄 秀盛さん

老人ホームでもリーダーが生き生きして楽しい顔をしていればそこに魂が宿っていくし、そこに仲間が集まってくる。ボランティアもどんどん受け入れたらどうや? 園内の雑草取りとかそんなんでもええ。植樹とかええな。桜でも植えて5年後、10年後に職員、入所者、ボランティアみんなで花見とかできたら楽しそうやん。俺に言わせたら楽しめるかどうかよ。楽しい顔しているところに人は集まる。「うわー、楽しそうな所やん」となれば地域から必要とされる施設になるよ。

「たったひとりのあなたを救う」。すべてはそこから

――現在の介護を取り巻く環境についてはどうお考えですか?

介護の世界って「人の役に立ちたい」という気持ちで飛び込む人が多いけど、「人のために~」という理由だけだったら値段(給与)が釣り合わんよ。これは日本駆け込み寺の活動指針でもあるけど「たったひとりのあなたを救う」ことがまず基本。“たったひとり”つまりまずは自分自身を助けろちゅうことや。自分が救われていないのに他人を救うことができるか?

日本駆け込み寺の基本理念

日本駆け込み寺の基本理念は、玄さんの名刺の裏にも明記されている。

それとみんな“助け過ぎ”ているちゃうか? 介護じゃなくて“養護”になっとる。お世話する人はあくまで脇役。そうでないと介護される側も頼りっきりになるし介護する側も疲れていく。確かにキツい仕事だとは思うよ。だから自分自身に喜びややりがいを感じなければ割に合わん職やと思う。そのためにはまずは心から人が好きでないと務まらんわな。

とにかく人間はコミュニケーションやで。喜びを与えれば人はどんどん動く。これはどこの社会でも一緒や。その人の尊厳や自尊心にちょっと手心を加えてあげると容態が好転することもよくある話やし、介護している方もそこに喜びを感じるちゃうかな。

奪う側から与える側に回ったとき、人生は楽しいものになる

――今後の抱負や展望についてお聞かせください

日本駆け込み寺とは別に「再チャレンジ支援機構」というのを計画中(※)や。刑務所で服役を終えた人を雇用して歌舞伎町で居酒屋をやったろと思っている。こんなんは俺にしかでけへんことや。でもこれをモデルケースとして、すすきのでやりたい、中洲でやりたい言うヤツがいたらノウハウ教えたるよ。警察や省庁とかとタイアップして色んなネットワーク作って… 最高やんか。世界的に稀にみる団体やな(笑)。銭儲けは仕事やけど俺の場合は志すと書いて“志事”なんや。

※2014年4月1日付で正式に組織化

――玄さんの人助けにかける情熱と信念。一体どこから湧いてくるのでしょうか…

楽しいから。俺が日本駆け込み寺を12年間続けてこれたのもやってて楽しいからや。世の中みんな奪い合いばっかりや。でも与える側に回ったとき人生は面白くなる。

まずは自ら楽しめ。そしてそこで仲間を作れ。仲間を作ったらもっと地域ぐるみで遊ぼうやないか。そしたらもっと人生楽しいもんになるよ。

日本駆け込み寺外観

公益社団法人日本駆け込み寺

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インタビュー/新海大 大西啓介