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特集:私の転職事情

「人は宝」。お互いの理念を共感できる人と現場をつくっていきたい。片野嘉樹さん

歯科技工士からデイサービスのヘルパーを経て、3年前に千葉県鎌ケ谷市で自らの事業所をオープンさせた片野さん。社訓に掲げた「共生互助」の理念のもと、利用者のみならず地域、職員とともに生き、成長していこうという強い志を持った片野さんにお話を伺った。

仲間にめぐり会えず、人の役に立つ感触がつかめなかった歯科技工士時代

――初めに歯科技工士になろうと思ったきっかけを教えてください

もともと人の役に立ちたいという思いが強かったのですが、表立って何かをするというよりは陰で人を支える仕事にあこがれていたんです。昔から手先が器用でプラモデルを作るのが得意だったこともあり、何かモノづくりで人の役に立ちたいなあと考えていました。ただ特別やりたいこともなかったので、高校卒業後に1年間だけ浪人して、その間に自分の進む道を決めようと思っていました。そのとき歯科医になった先輩と再会して薦められたのがきっかけです。その後専門学校で学び、卒業後に入れ歯を作る技工所に就職しました。

確かに「モノづくり」の夢は叶いましたが、「人の役に立つ」という点では疑問が残りましたね。技工所勤務では、実際に入れ歯を使うお客さんの顔が見えないんですね。また家族経営のような小規模の工場だったうえ、年配の従業員ばかりで年齢が近い同僚がいなかったんです。働くことへのモチベーションも無くなっていき、1年経ったところで退職しました。

――その後、介護の世界に転職を決めた理由はなんですか?

自分の希望をふまえつつ何ができるかを考えたとき、介護職か、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、鍼灸師がいいかなと思いました。それと“人を喜ばせる”という意味で浦安にある某有名テーマパークも考えていました(笑)。ところがPTやOTは専門学校で3年以上学ぶ必要があり年齢的に厳しいと思い断念しました。また浦安のテーマパークはあまり正規雇用をしていないのでこれも断念しました。将来のことを考えるとやはり正社員で働かなきゃダメだな~という思いがありましたね。

結局、ハローワークでヘルパー2級の職業訓練プログラムを見つけたのでそれに応募することにしたんですが、そこで実習で行ったデイサービスの印象があまりにも衝撃的でした。場の雰囲気が良いというか、お客さんと職員がみな楽しそうに盛り上がっている“一体感”がスゴかったんですよ。「ヘルパーで働くならデイでやろう!」とこのとき決意しました。

片野さん

良き仲間に出会えたおかげで
ここまでやってこれたと語る片野さん

“給料が安いから”は言い訳。役職に就くという目標があれば頑張れる

――その後、大手の事業所に就職されたんですね?

はい。ただ入社当時はパートだったんですよ。この会社では約6年半勤めたのですが、パートから契約社員になり、現場管理者を経て最後は施設長になりました。よく「介護職は給料が安い」と言われますが、この世界で稼ぎたいなら、しっかりと役職に就くことを目標にして仕事に取り組むべきだと思います。職業訓練校時代の同期にも給料の安さを理由に辞めてしまったヤツがいるんですが、僕は絶対に正社員になってやるんだという気持ちでかじり付いてきました。だから今の僕があるのかな。

とは言いながらも、正直僕も途中で辞めたいと思うことは何度かありましたよ。でも同世代の仲間と良い上司に恵まれていたことも、辞めずにここまで継続してこれた要因なんだと思います。独立した今でも彼らと連絡を取り相談に乗ってもらうこともよくありますよ。本当に良い仲間です。

――順風満帆なキャリアに見えますが、なぜ退職をして独立されたんですか?

理由は色々ありますが、大手ゆえの「縦の関係」に疑問を持ったからです。会社の規模が大きかったため、お客さんのために何か新しいサービスを提供するにしても稟議書を上に通さなくてはいけなかったんです。僕は介護をサービス業だと思っています。料金に見合ったサービスを提供するのは当然のことですし、お客さんのニーズというのは日々現場を観察していればわかるものです。それが気軽に提供できないことは本当にもどかしかったですね。

また経理面に携わるようになると事業所の収支って見えてくるじゃないですか。それを見たときに「もっと職員に還元できるのにな」と思ったんです。頑張った人にはきちんと給与面でも評価をしてあげられるようにしたかったんです。

6年半、現場で働いてきたことにより、介護に対する色々な“理念”を抱くようになりました。それじゃあ僕自身が理想とするサービスを提供する側になろう、共感できる理念を持った人と仕事をしようと思い独立を決意しました。

僕たち介護職員は「考える杖」にならなくてはいけない

――「理念」のお話が出ましたが、「共生互助」を社訓に掲げられていますね

お客さんとそのご家族、地域の方、職員、ケアマネ―ジャーなど、このメンバーが一体となり地域社会の中でともに助け合い、ともに生きて行こうというのがウチの理念です。法人名を「共生」としたのもそのためです。またこの“一体感”を生むために小規模施設にしました。

ただ、まだ課題は多いですね。ある日のエピソードなんですが、お客さんで、送迎を終えたあと行方不明になった方がいたんですよ。2日間探し回ってなんとか無事見つかったんですが、このとき市内にある他の施設と連携を図ってみんなで一斉に探し出すとか、何か困ったときにお互いを助け合える仕組みづくりが必要なんじゃないかなと思いました。楽しみを追求するばかりでなく安全や安心を考慮した地域連携。これは夢というか絶対に実現させたいですね。

片野さん

わらっ亭にの庭にて。
利用者と一緒に職員も楽しく過ごせるひとときだ

――「わらっ亭」についてお聞かせください

みんながわらって過ごせるようにと名前は「わらっ亭」にしました。職員は僕を含めて9名で、他は全員女性です。1日の定員10名に対し常時4名の職員が対応しています。

あとウチの特色としては、四季を感じていただきたい。またお客さんのやりたいこと、したいことを形にしたいというのがあります。今は庭に畑があり草花が生えているのですが、これはお客さんが希望したので一緒に作りました。その方は体があまり動かないのですが、自分の好きな園芸だと苦痛なリハビリよりも体が動き、何といっても表情が明るいんですよ。そこを大事にしています。当たり前ですが、色々なことに意味があり、業務にも意味があるんだと思い提供しています。ぬり絵の意味、体操の意味……

僕は日ごろ職員に「(僕たち職員は)考える杖になりなさい」と諭しています。どういうことかと言うと、介助一つ取ってもお客さん一人ひとりに合ったやり方というのがあります。それを考えて選び、“その人らしい”サービスを提供することが大事だと思っています。ホントお客さんは、職員の行動一つで幸せにも不幸せにもなりますからね。

不満と意見の差は解決方法があるか。解決策までふまえて提起してみよう

――片野さんが求める人材とは? またどんな人と一緒に働きたいですか?

今僕の理念をお話ししましたが、お互いの理念を共感できる人、お客さんの思いに寄り添える人と仕事がしたいですね。「人」こそ「宝」だと思うので、そこを分かち合える職員を大切にしたい。あとは「よし、コイツのためなら俺が尻をぬぐってやる!」と思わせるような人ですかね(笑)。

もう一つ希望を言えば、ある程度は長く勤めてほしい。お客さんは職員の顔が変わると戸惑ったり不安になったりします。それぞれ事情があるのはわかるが、簡単に仕事を辞めると一番困るのはお客さんだよということを肝に銘じてほしいです。

――最後に、現場で働く人や介護職への転職を考えている人たちにアドバイスを

お客さんの反応を見ていると、自分のやってきたサービスが形になっていく実感がつかめると思います。お客さん一人ひとりの“その人らしく”をお手伝いできることは、ホントこの仕事の醍醐味ですよね。離職率が高い職業ですが、僕は「志を持った人間に悪い人はいない」と思っています。だから就職しても簡単にあきらめないで欲しい。

この人が嫌だから、給与が安いからなど、転職するには理由がありますが、簡単に辞める人はどの職場に行っても同じです。現場で何か嫌なことがあっても不平不満を言うだけなら誰だってできます。でもちょっと我慢して、一歩踏み込んで「何が問題なのか」、「どうすれば解決できるのか」までしっかりと講じて問題提起をすることで不満ではなく意見に変わります。そうすれば周りは真剣に話を聞いてくれるし、悩みって意外と解決できるものなんですよ。

ズバリ聞きます! 上がってるの? 下がってるの?

●収入 KEEP→

歯科技工士のころよりは確実に上がっていますが、施設長だった前職と比較するとあまり変化はないですね。

●余暇 DOWN↓

さすがに経営者という立場では、現場の事以外にやらなくてはいけないことがたくさんあります。心休まるヒマはないかな~

●出会い UP↑

前職時代の仲間の手助けがなければ開業はできませんでした。それに鎌ヶ谷の地でたくさんのお客さんとその家族、仕事仲間に巡り合えましたしね。