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特集:私の転職事情

与えられた現状に満足せず、「自営」の意識を強く持って仕事を開拓していくことが大事 蓬澤 良一さん

東京都文京区で2012年10月に介護タクシーを開業した蓬澤さん。実家は代々続く製本業で現在も代表を務める立場だが、昨今の出版不況にともない新しいビジネスへ参画したという。江戸っ子らしく明るく気前よく振る舞う蓬澤さんに、介護の世界への挑戦に必要なスキルや心構えを聞いてみた。

早く一本立ちをして、両親を楽にさせてあげたい

――介護タクシーを始めようと思ったきっかけについて教えてください

実家は代々続く製本屋で、僕で4代目になるのですが、今から2年ほど前、ウチに納品に来るトラックの運転手の方が新たに介護タクシーを始めるというので興味を持ったのがきっかけです。製本業に関して、年々発注が減りつつあり、さらに価格競争で安く製本する業者も出てきてこのままでは廃業してしまうのではという危機感がありました。あとウチが受注している仕事のほとんどが教科書関連なので1年間を通して仕事にピークがあるんですよ。夏場はヒマになるので、この時間を活用して何かもっと仕事ができるのではないかと思っていました。

――このままお仕事を両立させていくのでしょうか? それとも介護タクシー一本に絞るのですか?

正直製本業は僕の代で辞めてしまってもいいかなと思っています。現在製本の方は僕と両親の3人で、介護タクシーの方は僕1人でやっています。出版不況とは言いながらも売り上げはまだ製本の方が良いのですが、常に重たい紙を扱っているので、70歳を超えた両親にとってはハード過ぎる仕事です。2人とも介護タクシーのことを応援してくれていますし、早くこの仕事を一本立ちさせて、両親を引退させて楽にしてあげたいんです。なので製本業には固執していません。

車内の様子

車内の様子。車いすなどの機材も搭載し、ストレッチャーも収容できる

資金は500万円くらい必要

――起業にあたり、まずはどのように動かれたのでしょうか?

まずはその運転手と同じ介護タクシー会社に加盟しました。その後は開業に必要な資格や設備、機材の取得ですね。

資格に関して言えば、当然タクシーなので普通自動車第二種免許、そしてホームヘルパー2級ですね。ちなみに僕は「どうせ二種免許を取るなら……」と思い大型二種を取りました。これなら介護タクシーが失敗してもバスの運転手になれますよ(笑)。あとお客さんを自宅のベッドから車に乗せるまでにどうしても介助が発生しますよね? そのためヘルパーの資格も必要事項に含まれています。お客さんに安心して利用してもらうためでもありますね。

開業するのに必要なコストは、親会社への加盟料、二種免許の取得費用、自動車購入費、現場介助に必要なストレッチャー、車いすなどの機材費…… これだけでざっと500万円くらいはしますね。ウチは製本業での蓄えがあったのでローンは組まずすべて一括で支払いました。

――お金に関してはみな悩みどころだと思います。予算の使い方で何か工夫できる点はありますか?

初期費用の中で最も大きな出費となるのが車の購入費です。ウチは新車のワンボックスカーを購入しましたが、お客さんに負担がかからないよう自動ドアや自動ステップ、リフトなども付いているので、通常の車よりも当然価格は高くなります。コストを安く済ませようと思い中古車も探したのですが、車内が汚かったり、故障箇所があったりしたので止めました。あと福祉用の車って台数が少ないので中古価格もそこまで安くないんですよ。お客さんに快適に乗ってもらうためにも、車は多少値が張っても新車を購入することをオススメします。

また初期費用だけでなくランニングコストも考えなくてはいけませんね。僕の家がある文京区の近くは、大きな大学病院がたくさんある割に介護タクシーの事業所が少ないんですよ。これは単純に考えて地価が高いので参入しにくいためだと思います。逆に地価が安く民家の多い足立区、葛飾区あたりは激戦区です。ランニングコストとして家賃、駐車場代は大きくのしかかってきます。僕は持ち家でそこを拠点にしているので家賃も駐車場代もかかりませんが、そうでない方は、地価、人口、病院の数を考慮してどの土地で開業するかを決めた方がいいかもしれません。

運転席の蓬沢さん

出発前の蓬澤さん。行く先々で「お客さんに感謝されるばかり」と日々の充実ぶりを語る

介護タクシーは、横のつながりがなければできない仕事

――開業されてから4ヵ月ほど経ちますが、日々のお仕事についてお聞かせください

平日は自宅から病院への送迎が主な仕事です。現在は1日平均3~5名のお客さんが利用されています。休日は食事に行く際に利用されるお客さんが多いですね。やっぱりこの仕事の醍醐味はお客さんから「ありがとう」と声をかけてもらえることですかね。認知症が進んで言葉を発せない高齢者の方もいますが、僕が迎えに行くとニッコリ笑ってくれて、もう表情から感謝の気持ちが伝わってくるんですよ。製本業では人と接することがほとんどありませんでしたから、この仕事を始めてホント楽しいと思える瞬間ですよ。

あと同業者の方々との出会いも素晴らしいものです。病院への送迎って、どうしても朝9~10時の時間帯に集中するんですね。迎車の依頼が複数入った場合、当然一人では対応できないじゃないですか。一度断ってしまうと、もう二度と利用してくれないかもという心配もあります。でもそこは同じ加盟者の横のつながりを活かして、空いている人が忙しい他の人のサポートをしてあげる協力体制づくりができているんです。しかも協力したからといって手数料を要求されるということもない。横のつながりのおかげで売り上げも若干ですがここ4ヵ月の間で右肩上がりです。親会社の研修や勉強会が定期的にあるのですが、そういう場でも相談に乗ってくれたりアドバイスしてくれたり、ホントに素晴らしい仲間だと思います。製本業なんて客の奪い合い、足の引っ張り合いですからね(笑)。

――仕事で辛いこと、問題を感じることはありますか?

僕自身辛いことはないですが、介護タクシーの料金が他の福祉サービスと比較して割高感があるように思えて、それにお客さんが負担を感じているのではと思うときがあります。介護タクシーはあくまで旅客営業なので介護保険は適用外(※)なんです。それが割高感を生んでいるように思います。あるお客さんの自宅に行った際、タクシーの運賃とは別に発生する介助料の説明をしたところ、僕の手を借りずに這って玄関まで移動しようとした方がいました。1円でも多く節約したかったんでしょうね。介護保険の適用が無理だとしても、料金に対する市町村の補助がもっと手厚くなればいいなと思います。
※ただし利用者の居宅や移動先で発生する介助料に関しては介護保険適用の範囲です。

サラリーマン気質は捨てろ。ガツガツ行け!

――起業や独立を考えている人に、何かアドバイスはありますか?

すべての業種において言えることだと思いますが、脱サラした人の多くはどこか大人しいというか型にはまったことしかできないと言われています。つまり決められたルールの中でしかやらないとか、フランチャイズ元である親会社の意向に反したことはしないとか、どこかサラリーマン気質が抜けていないということでしょうね。でもせっかく独立したのだから、与えられた現状だけで満足せず、「自分がやっていくんだ!」という自営の意識を強く持って仕事に取り組んでほしいですね。僕がヘルパーの資格を取りに行った学校の同期生でバイク屋から介護タクシーを始めた方がいるのですが、もうバリバリ働いていてお客さんも多く相当稼いでいるみたいです。50代くらいの方なんですがバイタリティーに溢れていて、ちょっと乱暴な言い方かもしれませんが、その人と居ると“ガツガツ感”を感じるんですよね。僕もそうありたいなあと。

――最後に、将来の夢や目標をお聞かせください

具体的な目標になりますが、製本業を辞めても食べていけるだけの、介護タクシー一本で今以上の収入を得たいですね。育ち盛りの子どもが2人も居るのでしっかり稼がないと…… そのためには車も2~3台増やして、従業員も雇ってサービスを拡充させていかなければなりませんね。僕の家の商売がこの地で4代も続いたのと同じように、末永くお客さんや地域の人たちから信頼される仕事をしていきたいと思います。

ズバリ聞きます! 上がってるの? 下がってるの?

●収入 DOWN↓

利用者は日に日に増えているのですが、製本業の売り上げと比較するとまだ追いついてないですね。

●余暇 DOWN↓

日曜日に利用されるお客さんもいるので、今年に入って一日丸々休みの日はありません(笑)。でも待機時間があるので、その間休憩はしっかり取っています。

●出会い UP↑

今までは自宅から一歩も出ない環境だったので出会いは当然広がりました。人とつながっていくのが楽しいです。それに伴って売り上げも伸びてほしいですね。