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現場で使える!今昔百科事典

歴史、文化、流行などを今に紹介する「今昔百科事典」。現場で利用者たちとの共通の話題づくりに役立ててほしい

ーゴーストライターー

佐村河内守氏

全ろうの作曲家で「現代のベートーヴェン」などと謳われている佐村河内守氏。彼の手がけた曲のすべてが第三者の手により作曲されたものだと暴露され音楽業界のみならず世間を震撼させています。今回はその第三者、「ゴーストライター」の存在について触れてみます。

Trivia

ゴーストライターの存在意義

連日の報道で、佐村河内氏の歴年の嘘が次から次へと明るみになり、世間の厳しい批評に晒され続けています。そもそもゴーストライターというのは一体どんな存在なのでしょうか? 大きく分けて次の2とおりあります。

1つは、作家自身が多忙で作品を制作する時間や余力がないため代作をするケース。もう1つは、著者(とされる人)自身にそもそも創作する能力がないため代作をするケースです。その存在は出版や音楽業界ではタブーとされているものの、関係者たちから後になって暴露されるケースが多く、今では暗黙の了解となりつつあります。実際ライターの求人案件で「ゴーストライター募集、某会社社長の自叙伝です」といった具合に堂々と募集をかけているプロダクションもあるぐらいです。ちょっとマヌケな事例を挙げると、タレントの松本伊代が1984年に出した著書について、記者から本の内容について聞かれた際に「まだ読んでいないのでわかりません」と回答し自らゴーストの存在を認めてしまいました。こうあっけらかんと口にしてしまうあたり、当人たちにとって罪の意識は薄いのでしょう。

History

あのノーベル賞作家もゴーストに執筆を頼んでいた!?

ゴーストライターの歴史は古く、ノーベル文学賞作家の川端康成も、作品のいくつかを関係者に代筆させていたようです。また若き日の川端も、自らが師事していた菊池寛の作品を代筆していたようで、日本の文学界でも脈々と受け継がれてきた慣習なのかと疑ってしまいそうです。もし川端の作品のいくつかが他人の手によるものだったと早くに判明していたら、ノーベル賞の辞退を迫られていた可能性だってあります。

Trivia

『HIROSHIMA』ジャケット

代表作である交響曲第1番『HIROSHIMA』。皮肉にもこの一連の騒動以降、CDの売り上げが急激に伸びているとか。

佐村河内名義で出された曲の著作権の行方

今回の一件で、代理制作をしていた作曲家の新垣隆氏は「著作権を放棄したい」と会見で語っています。しかしCDや楽譜は佐村河内氏の名義で出されています。この場合の著作権はどちらに帰属するのでしょうか?

その前に「著作者」と「著作権者」の違いについて触れておきます。「著作者」は文字どおり作品を制作した人(団体)そのものであり、著作者が新垣氏であるという事実は未来永劫変わることはありません。一方で著作権を有している人(団体)を「著作権者」と言います。通常は「著作者=著作権者」と認識されますが、著作権はあくまで権利のため著作者の意志で人に譲渡したりすることができます。会見で「謝礼は受け取ったが、印税はもらっていない」と発言しているところを見ると、著作権を佐村河内氏側に渡してしまったのは間違いないでしょう。いくら“権利を放棄する”と言ったところでそもそも著作権自体新垣氏にはないのです(※)。

時に印税は莫大な利益をもたらします。果たして佐村河内氏が著作権を放棄するのか、著作権の行方に注目が集まります。

※ただし「著作者人格権」という権利があり、作者が著作権を放棄した場合でも、作品に自身の名前のクレジット表記が認められることや、作品の使用差し止めを求めることができるなど最低限の権利は著作者に残ります。